2007.11.24 「格差×戦争 〜若者のリアルと憲法〜」 報告

憲法カフェ、メジャーデビュー?


 11月24日、東京・早稲田大学で、堤未果さんと雨宮処凛さんをゲストに招いて、「格差×戦争 〜若者のリアルと憲法〜」を開催しました。今回のイベントは、憲法カフェ初の大型ハコモノ(?)企画で、どれくらいの人が来てくれるのか、実は当日までかなり心配だったのですが、ハコを開けてみると、開場時刻前から多くの人がロビーに詰めかけてくれて、最終的には150人教室で立ち見が出るほど多くの人が集まってくれました。

 TBS、NHK共同通信、社会新報、東京スポーツマガジン9条JANJAN、FMえすかれぇしょんなど、取材に入ってくれたメディアも多数。なんだかポッと出のバンドが突然メジャーデビューしてしまったような感があるような…と思いつつ、当日の様子を報告します。(kanti)

 当日の資料一式をアップしました。よろしければご自由にダウンロードしてください。(英語の画面が出てきますが、怪しくないので、"Click here to start download.."というところをクリックしてください。)

 資料: (916KB)
 アンケート集計結果: (182KB)
 質問用紙: (141KB)

 まずは、司会が今回のイベントの主旨を紹介。「憲法について私たちが思考できないこと、つまり政治的な意志決定に若者が排除されていることは、昨今議論される、『若者の社会的排除』のもっとも根本的な例」という問題提起を受けて、早稲田大学の高橋先生からも、自由な言論の空間を保障するために、私たち一人一人が憲法を身近な武器にして闘うことが必要、という話がありました。


●知ることを武器に

 次は、堤未果さんによる講演。講演の内容は、岩波新書から近々発行される『貧困大国アメリカ』を、ぜひ読んでいただきたいのですが、簡単に概要を説明すると:

 2001年9月11日の同時多発テロ以降、アメリカでは社会保障費が削減され、人々の暮らしや命、教育に関わる分野に競争が持ち込まれ(民営化され)、個人情報の一元化が急速に進みました。アメリカでは、今、貧しい地域の高校生が軍のリクルーターにすさまじい方法で騙されて、生活のためや大学に行くために、自ら軍に入隊してしまうという「裏口徴兵政策」が敷かれています。

 そのリクルーターの手練手管も、本当にものすごいのですが、個人的には、堤さんの話がおもしろいのは、軍のリクルーターも被害者だという、そうした知識を支えるクールで温かい視点があるからだと思います。リクルーター・システムは、アメリカが競争を導入して、格差を拡大させて、弱い者がさらに弱い者に牙を向け、さらに弱い者が、海の向こうにいるそれよりも弱い者たちに銃を向けることで、戦争を極めて効率的に回すためのシステムである――と、堤さんは言います。そして、その流れはアメリカだけではなく、世界中で広がっている。そうした、流れに抵抗するために必要なのは、何が起きているかを正確に知ること、連帯すること、憲法を武器にして国、企業に対して突きつけることだ、と。

●勤務地は戦場?

 そして、雨宮処凛さん出演のドキュメンタリ『新しい神様』(抜粋)を上映した後は、雨宮処凛さんと堤未果さんの対談に。この部分は「マガジン9条」が書き起こしをしてくれています。かなり長いのですが、文句なしにおもしろい内容だと思います。

 司会:今流した映像(『新しい神様』)は、1999年―戦争論が出て1年後、9.11が起こる前で堤さんがアメリカに行く前―のものなのですが、まずは堤さんにそのへんの感想から伺えますか?

 堤:予告編が気になっていて、ずっと見たいと思っていたんです。これは雨宮さんが24歳のときですよね。ここから飛び越えて一気に左に行ったんですか?

 雨宮:右翼はこの映画の中でやめてますよ。もうやめますって、バイトみたいに。

 堤:そんなに簡単にやめられるんですか?

 雨宮:いい団体だったので(笑)。右傾化の最前線の団体でしたね。元オウム信者もいて、「こっちの世界にはまともな命の使い方がない」ということを言っていて・・・帰属先のない人たちが集まっていました。

 堤:アメリカでも9.11以降キリスト教に入信する人が非常に多かったんですが、それと重なりました。9.11後に急に共和党に投票するような人が増えて、政府も選挙戦略でキリスト教を利用したんですね。誰も自分を守ってくれないときに、絶対に自分を受け入れてくれる神様を。ところで、このタイトル『新しい神様』ってどういう意味なんですか?

 つづきはこちら:
 http://www.magazine9.jp/taidan/002/index.php (その1)
 http://www.magazine9.jp/taidan/002/index2.php (その2)

●質疑応答

 最後は、参加者を交えたフロアとのやり取りに。何十人もの参加者が質問用紙や発言を寄せてくれ、どうしても限られたコメントしか扱えなかったのですが、以下にいくつか紹介します。

 Q:戦争をしないという意思はあるのですが、実際に他国が攻めてきたら・・・という問題はどう考えればよいのでしょうか?自衛隊もあり防衛省もあり、もうめちゃくちゃに破壊されかかっている憲法9条をどのように守っていけばよいですか?

 堤:いくつかハードルもあって、やり方もあると思うのですが、改憲論というのを聴いていると、二つくらいしか種類がないですね。一つは、攻めてきたらどうするのか?という不安で萎縮したもの。もう一つは、国際貢献しなければならないから、お金だけじゃなくて、軍も出さなければ、日米関係も重要、ということで語られています。でも、今、9条を一つのコンセンサスにしようという国境を越えた動きがあります。武力ではなく、やはりエネルギー問題、食糧問題、環境問題のように、平和というものも、国家が協力して外交で構築していきたいと考えている世界のリーダーは増えています。日本のメディアで報道されないのは残念ですが。外交で平和を構築するのが世界の流れになっていて、日本のリーダーシップが期待されているのに・・・。まずは、そういう情報を正確にたくさん入れる。それから得た情報をなるべく多くの人に渡していくこと。それができることだと思うんです。

 雨宮:私は右翼のときにそれを言っていたので困るんですけど(笑)・・・もし、日本が、ものすごく貧乏で魅力がない国になれば誰も攻めてこないと思うから、そういう国になるとか。そういうのもあり?9条をどう守るか。難しいですね。
 私は憲法との出会いがものすごくいい出会いだったんです。右翼団体に入ったときは、政治的なことは全然知らなかったので、アメリカからの押し付け憲法改正というのをよくわからずに言っていたんですけど、あるとき右翼と左翼に分かれて、日本国憲法についてディベートをするという練習があって、私は左翼の役になったんです。それで、憲法を読んだんですけど、前文を読んですごく感動しちゃって(笑)・・・転向の転機になりました。あとは不眠症のときとか、憲法を読みました。すごくよく眠れます(笑)。
 あとはプレカリアートの問題は25条の問題ということが、知らない間に共有されていました。本当に武器にできるものは、憲法しかなかった、という感じで。そこから憲法の問題がすごくリアルになりました。憲法は、紙とか文とかではなくて、これしか武器にならない、という出会い。そういう出会いがないと難しいかな。

 Q:貧困の問題をしながら、便利さに甘んじている自分もいます。

 雨宮:私も甘んじてますよ。でも、私もニート成金とか、自分自身が貧困ビジネスだとか言われたらどうしよう(笑)。私はお金は運動に使います。服にも使うけど(笑)。

 堤:私もそうですけど(笑)。そうは言っても自分たちは便利な生活は手放したくない。最終的な落としどころは、スターバックスが好きなら、そういう企業が何をしているかを知ることですね。スターバックスが、エチオピアで搾取をしているのを知っているのに、それをやめられないのはおかしいです。そういう企業がしていることを認識して、それがおかしいなら、私たち消費者には選択権があります。NYでは、スターバックスの前で不買の歌を歌っていた牧師さんがいて、少しでもそのことを知った人たちがスターバックスを買わなくなったんです。それで、NYでスターバックスが売れなくなって、スターバックスエチオピア政府との取り引きで妥協して、搾取が半分くらいに減りました。これは成功例です。大会社は私たちが立ち打ちできないということではなくて、私たちが受身の消費者でいない限り、動かせます。不安に駆られて消費をするのは受身だけど、何が起こっているかを理解して、選んでいくなら、違うのかな。

 雨宮:私も取材をしてひどい話ばかりきいているので、不買運動をしていると、生活が成り立ちませんね。ほとんど全会社だし(笑)。

Q:堤さんはある意味恵まれていて、9.11をきっかけに気づいたわけだけど、まだ気づいていない人にはどうやって問題を伝えればよいのでしょう?

堤:9.11がきっかけで、証券マンをやめた人はけっこう多いですよ。お金がものさしで、体制側というか、貧困ビジネスをやった方がいいという論理で動いているのが金融業界ですから。私はアムネスティで働いていたんですが、そこではお金は悪いもので、資本主義は敵だと思っている人が多くて。でも、私はそれに疑問を持っていて。志だけで社会が変わるわけじゃない。お金は道具で、その使い方が重要だと思っていたので、その内側の論理を知りたくて、野村に入ったんですね。野村は合理的である意味気持ちよかったです。
 でも、9.11以降、いろいろな人を取材して、本当のことを知ってしまうと、知る前に戻ることはできない。耳を塞ごうとしても心の中に入ってきてしまいます。私は個人的にはそう思っています。9.11に遭う前の私のような人々、あとダメだと思っていても自分で関わる余力がない人をつないでいけたらいいですね。日本では30代にその役割があるはずなのに、30代は過労死コースで、鬱が待っていたりして・・・。それでも伝えていくことですね。
 私の場合、自分の武器は書くこと、喋ること、種を蒔くこと。そのときは反応はないかもしれないけど、その人が心に余裕ができたとき、気持ちが変わったとき、そこでクリックするかもしれない。こんなこと力にならないんじゃないか、一人でやっていると無力感を感じたりすることもあります。でも、それは声を上げようとする人すべてが持っている悩みです。すぐに結果が出ないと、自分に力がないんじゃないかとか思う人は、世界中にいて・・・。自分たちの中にある諦め、すぐに結果が出ないときに無力感を感じてしまうこと、それが本当の敵ではないでしょうか。体制ではなくて。とりあえず種を蒔いておくことが大切だと思います。

憲法カフェの、これから

 と、こんな感じで、11月24日の憲法カフェは大盛況でした。会場からは33667円の寄付をいただき、イベント後の交流会にも、本当に大勢の方が参加してくれました。この場を借りてお礼を申し上げます。

 次回の憲法カフェは12月22日(土)に開店します。詳細はブログやメールでお知らせしますので、お気軽にご来店ください。また、2008年2月にシブヤデモを企画しています。では、これからもよろしくお願いします。

 追記:マガジン9条に連載中の「雨宮処凛がゆく!」にも、当日のイベントの様子が掲載されました。ぜひご覧ください。