アフター参院選!

今までの「出張憲法カフェ」の講師でもあり、プロジェクトのいちメンバーでもある山根徹也です。参院選後に自分が思ったこれからの展望を載せてみますね。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

与野党逆転

 やはり与党を敗北させたことは大きい。参院与野党逆転が実現されたので、改憲をやめさせるのに有利な状況が生まれました。議長等の役を民主党が取ることになるので、参院での与党だけの強行採決はできず、野党の賛成しない法案も参院では可決されませんし、衆院で再度審議すれば成立するとはいうものの、日程などを考えるとむずかしくなります。これはいいことです。

公明党

 さらに、公明党とその支持基盤、創価学会の内部では、安倍改憲路線に追随する公明党の方針に異論出ているそうです。公明党改憲にはっきり反対すれば、自民党改憲路線はたいへんむずかしくなってきます。

自民党

 しかし、安倍政権は強気です。自民党内では、情けないことに「ほかに人がいない」などという理由で、続投を許す者が多いようです。
 今回の参院選でも、大量に落選したのは、小泉ー安倍ラインと比べると「守旧派」の津島派(旧田中派)で、安倍に近い山本一太世耕弘成は当選しています。そのへんのことも安倍周囲の不思議なの自信を支えているのかもしれません。

《財界とアメリカ》

 しかも、経団連会長など財界の有力者はおおかたが安倍続投を支持しているもようです。改憲を含む「構造改革」をさらに急速に進めてほしいというのです。アメリカでは安倍をたたくメディアも出てきたようですが、米政権は、あくまで安倍を支持するでしょう。テロ特措法を延長して米国の戦闘を支援せよ、さらには、改憲をして「集団的自衛権」を行使せよというのが、(共和党だけではなく、米民主党も含め)米国の要求です。

《社民・共産・無所属》

 さて、対する野党はどうか。


改憲反対を党として掲げているのは社民党共産党の二党のみですが、両党とも少ない議席をさらに減らしてしまいました。今回の選挙の\残念な側面です。しかし、貴重な戦力なのですから、両党にはがんばってもらわなくてはなりません。糸数慶子(沖縄)、川田龍平(東京)ら改憲反対派の無所属議員にも期待したいですね。

民主党

 民主党自体を見ると、(安倍なみのタカ派を含む)改憲派 もいれば、護憲派もおり、はっきりしない者もいるという状況は変わりません。当選民主党議員のなかでは9条護憲派の数がうわまわってい
ますが、あまり安心できません。

 毎日新聞のアンケート(http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/senkyo/07saninsen/)を調べてみましたが、「9条は改正すべきではない」と答えている者のなかにも、「専守防衛を前提に自衛隊憲法に明記すべき」と答える人がかなりいます(9条をそのままにして、自衛隊の条文を加えるということでしょう。
それは結局9条改正だと僕は思います)。また、改憲に反対でも、「現憲法下で集団的自衛権の行使は認められる」などと、安倍政権と同じ主張をする者もいます。
このような政治家は事実上、改憲派、もしくは改憲派に近い人だと見たほうがいいと思います。はっきりした
9条改憲派にこの手の人も足すと、民主党当選議員60人中23人です。他方、9条改正反対の人からこれらの人を除くと28人で、けっこう拮抗しています。

 憲法9条に関しては、民主党は派閥、個人によって大きく態度が異なります。その実態はまだはっきりしないのですが、おおまかにグループ分けすると、以下のようになるようです(いずれも例外があるので注意してください)。

 小沢グループ、羽田グループ、鳩山グループのようなもともと自民党から出た政治家は、改憲派が多いようです。小沢代表その人も、もとは改憲派タカ派政治家として知られていました。西岡武夫(旧自由党教育基本法改定では、自民党案よりもっと右の民主党案を作ったチームの座長)などは、毎日新聞アンケートで、9条を改正して「海外でも武力行使できる軍隊の保有憲法に明記すべきだ」とはっきり言っています。

 また、松下政経塾出身者を含む、「若手グループ」などと呼ばれる前原前代表に近いグループも、集団的自衛権行使を唱える改憲派です。

 さらに、旧民社党・同盟(右派労働組合)系の議員もけっこう多い(比例区には連合の票で旧同盟系の議員が当選するケースが見受けられます)のですが、彼らの多くはかなりタカ派とみられます。(例を挙げると、埼玉の山根は、「9条は改正すべきではない」とは言っていますが、核武装は「今後の国際情勢によっては検討すべきだ」と、かなりタカ派です。)

 護憲派には、旧社会党系・総評(中道左派労組、連合内の日教組自治労など)系の議員(横路孝弘が率いる横路グループ)や、「リベラルの会」など市民派の議員が多いようです。こういう人たちは、アンケートでは、「憲法9条を改正せず、自衛隊は縮小すべきだ」と答えています(10人)。

 ただし、現在、横路と小沢は、9条に則った(とされる)安全保障政策について合意し(2004年)、少なくとも当面は改憲しないという線で横路グループ小沢グループが連携して小沢路線を支えているわけです。しかし、小沢グループの政治家がみな9条改憲を主張するのをやめたわけではなく、小沢も今後どう路線を変えるかわかりません。政治ってややこしいですね。

 そのほか、かなり多くの議員(神奈川の牧山など)が、「憲法9条を改正せず、自衛隊も現状のままでいい」と答えています。中間派です。巨大な規模を持ち、海外派兵をくりかえす自衛隊の現状は、どうみても違憲なのですが、あまり深く考えていないというのが、この辺の人たちでしょう(ただし、同じ答えで、集団的自衛権は認めちゃっている人もいます)。

こういう人たちは、たしかに改憲派ではないのですが、ちゃんと護憲のために努力してくれるか大変心配です。だいたいホームページを見ても、憲法にそもそも言及してない人が多いようです。
 (民主党内の潮流分類については、http://list.jca.apc.org/public/aml/2007-May/013691.html 
も参考になります。)

《まだまだあぶない憲法

 こういうふうに見ると。まだまだ安心はできません。
引き続き、安倍もしくは安倍後継政権は、改憲をめざすでしょう。「集団的自衛権」もあきらめず、当然、テロ特措法延長をめざすでしょう。改憲準備のために、憲法審査会もこの秋に設置しようとするでしょう。
 
 民主党が反対を貫けば、すべてわりとたやすく阻止できるのですが、上に書いた民主党内の配置を見ると、そうなるかどうか。小沢代表は、テロ特措法には反対を明言していますが、米駐日大使に説得を受けているようです(アメリカもあわてたもよう)。すでに、前原前代表は、テロ特措法延長に賛成しようと、党首に対して公然と異論を唱えています。
 憲法審査会の設置に民主党がちゃんと反対するかどうかも、予断を許しません。

《今後の課題》

 民主党改憲に走るか、改憲に反対するかは、結局、世論の動向にかかってくるでしょう。わたしたち市民の声が決定的です。市民が黙って様子を見ているだけだと、財界・アメリカの影響力は民主党に対しても強烈ですから、しだいに改憲へとぶれていくでしょう。自民党民主党が組めば、依然として改憲発議は簡単にできるのです。

 わたしたち市民は、改憲に反対する声を挙げつづけなければならないのです。
また、専守防衛自衛隊の存在を憲法に明記するだけにしようという、限定的改憲論が民主党内では多いようですが、そういう方向を許してしまうのかどうか(僕は許すべきではないと考えていますが)、わたしたちの9条についての理解・判断を深めていく必要があると思います。 

《今年下半期》

 短期的には、政治の舞台では次のような問題が起き(てい)るので、いちいち対応、意思表示していく必要があるでしょう。

1)安倍続投
 安倍政権のいすわりを許してはならないでしょう。

2)集団的自衛権行使容認
 9月に安倍に対して、「有識者懇談会」が「現憲法下でも認められる」という答申を出します。これを安倍首相が受けて、公式にそういう主旨の見解を出してしまうおそれがあります。これはもう解釈改憲でもなく、解釈による憲法蹂躙ですから、止めさせなければなりません。ただし、安倍が辞任に追い込まれれば、この話も一旦、なかったことになるでしょう。

3)テロ特措法
 今年11月1日にテロ特措法は期限切れです。それまでになんとしても同法を延長させようと、自民党は必死になります。民主党がなびかないか、あるいは、党を割って、賛成に回る議員が出ないかが焦点となるでしょう。自衛隊の海外派遣と米軍戦闘支援に反対する声を挙げる必要があります。

4)憲法審査会
 この秋に、民主党が国会で憲法審査会の設置に賛成するかどうかが焦点になります。設置に反対する声を挙げる必要があります。

5)その他
 教育基本法改悪のさらなる具体化推進なども企てられるでしょう。また、共謀罪もまた出るかもしれません(共謀罪は、民主党の案も危険!)。いろいろなことがありうるので気がぬけません。

 というわけで、今年下半期も、しっかり憲法カフェやその他のアクションを展開する必要があると思います。でも、今回の選挙で、状況は変えられるということがわかったので元気が出ますね。楽しくやりましょう。

  山根徹也