イベント報告:出張憲法カフェ@高円寺 2007.06.30

kenpou-cafe2007-07-07


 2007年5月、国会で国民投票法が成立し、戦後初めて憲法を変えるための具体的な手続きが制定されました。けれども、憲法を変える権利を持っているはずの私たちは、実は憲法についてあまり多くを知らないまま。これっておかしくないですか?私たち出張憲法カフェチームは、街に出てみなさんと一緒に憲法について学び合うイベントを実施しています。今回は、その第一回目の勉強会の様子を報告します。

●なぜ憲法を語るのか?

 2007年6月30日、CAFE indian summer@高円寺。http://happyassist.com/is/index.html R&BのBGMが流れるお洒落な雰囲気のカフェで、講師の山根先生を囲んで出張憲法カフェが始まった。参加者は22名。会場には取材に来てくれた東京新聞の記者とカメラマンの姿も。

 講師の山根先生は横浜市立大学の准教授。西洋史を専門にする山根先生は、自分が憲法の問題に関わる理由をこう語る。「憲法改正が非常に重要な局面にある今、すべての人に関わる憲法の問題を調べて伝えることは教員の役目ではないでしょうか」。もっとも、国民投票法が公務員と教員に言論規制をかけて国民投票運動への自由な参加を禁じているところを見ると、政府与党はそうは思ってくれていないみたい。うーん残念。

改憲への動き

 今日のテーマは自民党改憲案の問題点について。自民党改憲案は、1955年の結党以来、憲法改正を綱領にしてきた自民党が2005年に発表したもの。安倍政権が発足した2006年から急激に加速してきた改憲の流れ(教育基本法改定、防衛庁昇格法成立、国民投票法成立、集団的自衛権論議開始、教育三法改定、イラク特措法延長・・・)の先には、2010年とも2011年ともいわれる国民投票改憲派によって着々と準備されている。

 では、改憲派の人々は今の憲法をどのように変えようとしているのだろうか?「自民党が目指す方向を読み取ることによって、それに反対するのか、それでも賛成するのかということを、すべての市民が判断できるようになることが必要です」(山根)。

自民党改憲案の問題点

 自民党改憲案の問題点は、一言でいえば、それが立憲主義の否定・三原則の解体・戦争と統制への道」になっていること。そこまでヤバくはないんじゃない?と思っているみなさまへ。そのポジティブ・シンキングこそヤバいかもしれません。なぜかというと・・・。

(1) 立憲主義の否定

 立憲主義というのは、個人の尊厳を守るために国民が国家を統制する仕組みのこと。このことは意外と知られていないけれど、立憲主義は実はすべての近代憲法の基本原理。ところが、自民党改憲案では、逆に国家が個人を統制する手段として憲法が利用されることに。

(2) 三原則の解体

 このことは、憲法の三原則である (a) 基本的人権 (b) 国民主権 (c) 平和主義 が、改憲案の中でどのように歪められているかを見るとよくわかる。

 (a) 基本的人権

 現行憲法で「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」(第13条)として保障されている基本的人権は、改憲案では「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」(第13条)になっている。

 ここで要注意なのは、公共の福祉「公益及び公の秩序」に言い換えられているということ。公共の福祉が、別の個人の人権を意味するのに対し、公益及び公の秩序が意味するものは、いわゆる「国益」。つまり、改憲案では、国家権力が個人の人権に優先することが謳われている。けれども、国益に反しない範囲でしか人権を認めないというのは、実は人権を否定していることとあまり変わらない。

 (b) 国民主権

 現行憲法の「国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する・・・」という前文は、改憲案では丸ごと削除されている。さすがにすべてを削除するのはまずいと思ったのか、「国民主権・・・は、不変の価値として継承する」という一文が入れられているけれど、その後には「日本国民は、帰属する国や社会を愛情と責任感と気概をもって自ら支え守る責務を共有し・・・」(前文)という文言が。これって、政府が年金泥棒をしても、国民は「愛情と責任感と気概をもって」税金で穴埋めしろってことですか?

 (c) 平和主義

 まず、現行憲法政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し」(前文)は、あっさり削除。代わりに出てくるのが、「平和主義と国際協調主義の基本原則は、不変の価値として継承する」(前文)という一文。政府が「国際協調主義」という言葉で最優先するのは、やはり日米関係かと。というか、他に思いつきません。

 そして、自衛戦争を禁じている9条2項は全面改訂に。改憲案のもとでは、自衛隊は軍隊になり、集団的自衛権を行使して米国と一緒に戦争したり、さらに国内のテロや大規模なデモに対して治安出動したりすることができるようになっている。

 「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」(現行憲法 9条2項)

 「? 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮権者とする自衛軍を保持する。
 ? 自衛軍は、前項の規定による任務を遂行するための活動を行うにつき、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
 ?自衛軍は、第1項の規定による任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び緊急事態における公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。
 ? 前2項に定めるもののほか、自衛軍の組織及び統制に関する事項は、法律で定める」(改憲案 9条2項)

●どのように改憲に向き合うか?

 その後は、改憲案での首相権限の強化や地方自治の空洞化、改憲運動の背景にあるグローバル化について講義が続き、最後は参加者によるフリートークに。そもそも国家って何?という疑問から、憲法に関する問題意識をどのように広げていくかということまで、なかなか活発な交流ができたのではないかと思います。

 他にも書きたいことはいろいろあるのですが、それは別の機会に、ということで。次回の出張憲法カフェは7月14日(土)。東京近郊にお住まいの方、私たちとコーヒーを飲みながら、憲法について語ってみませんか?お問い合わせはkenpo.cafe@gmail.comまでぜひ。

 次回出張憲法カフェのお知らせは
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